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盛岡家庭裁判所 昭和33年(家)755号 審判

申立人 横川明(仮名)

相手方 渋谷徳三(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

申立代理人は「相手方は申立人に対し別紙第一目録に記載の不動産の三分の一を分割して引渡さなければならない。もし相手方においてこの不動産を引渡すことができないときは、これを換価し、その換価金の三分の一を申立人に引渡さなければならない。」との審判を求め、その実情として、次のように述べた。

件外渋谷勇次郎が昭和三〇年一月○○日死亡したため遺産相続が開始したが、その当時における遺産相続人の氏名、続柄および相続分の概要は別紙第二目録に記載のとおりであり、相続の対象となつた不動産は別紙第一目録に記載のとおりである。そして、上記勇次郎の妻件外渋谷ヨシは昭和三〇年一月二〇日申立人に対し上記の遺産相続の対象となつた不動産についての相続分(全不動産の三分の一)を申立人に贈与する旨を申し出たので、申立人はこれを受諾した。ところで、その後件外渋谷ヨシは遺産分割の協議に参加したことがないにもかかわらず、遺産相続人の一人である相手方は件外ヨシが協議に参加し、相手方において別紙第一目録記載の不動産を単独で分与を受けることに同意したとの協議書を偽造し、これを登記申請書に添付し、昭和三〇年六月一三日盛岡地方法務局第四四一〇号をもつて上記不動産全部を単独で分与を受けた旨の所有権移転登記をした。しかしながら、上に述べたところによつて明らかなように、件外渋谷ヨシの参加しない遺産分割の協議及びこれに基いてされた上記移転登記は無効である。そうして、申立人は昭和三〇年春頃相手方に対し口頭をもつて本件遺産の分割を請求したが、相手方は分割すべき何らの財産もないといつてこれに応ぜず、共同相続人間に協議が整わないので、遺産分割の審判を求めるため本申立に及んだ次第である。なお、民法第九〇七条によれば遺産分割を請求しうるのは共同相続人とだけ記載されているが、ここにいわゆる共同相続人とは一般の共同相続人のほかに共同相続人の一人又は数人から相続分を贈与その他の事由によつて取得した者をも含むと解すべきであるから、申立人もまた分割請求権を有するものである。

よつて案ずるに、共同相続人間において遺産分割につき協議が成立すれば、家庭裁判所は当事者の意思表示に代る審判をすることは許されず、右協議によつて形成された権利関係に関する紛争は民事訴訟事項に属することは明らかである。これと同様に、共同相続人間において遺産分割に関する協議が成立したとし、かつこれを証するに足る書面が作成され、特にその書面に基き不動産につき所有権移転登記がなされたりなどして、形式上一応その協議が有効なものとして取り扱われているような場合に、その協議の存在ないし効力につき争いがあるときにも、通常の民事訴訟手続に従い利害関係人をして充分に攻撃防禦をつくさせたうえで権利義務の存否を確定すべきであつて、これを家事審判の対象とすることはできないと解するのが相当である。すなわち、上記のような場合にあつては、まず民事訴訟手続によつて遺産分割についての協議の無効ないし遺産分割請求権の存在及び所有権移転登記の抹消などについての確定判決を得たうえで、改めて民法及び家事審判法の定めるところにしたがつて分割の手続をとるべきである。

ところで、本件申立はこれを要するに、共同相続人間で相続財産分割についての協議がされたとし、協議が成立した旨の書面が作成され、しかもこれが一応有効なものとして取り扱われ相続財産全部につき相手方名義の所有権移転登記がなされているが、その基礎となる協議に申立人に相続分を贈与した件外渋谷ヨシが参加していないため、その協議は無効であるというに帰するから、これが是非を確定することは当裁判所の権限外に属するというほかはない。そして、家事審判事件と民事訴訟事件とはそれぞれ著しく性質を異にしており、法律上の効果も同一でないため、本件申立をもつて遺産分割についての協議無効確認ないし遺産分割請求権存在確認を求める訴訟とみて、これを管轄裁判所に移送することもできない。

そうすると、本件申立はその余の点について判断するまでもなく、申立それ自体において不適法というべきであるから、これを却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 岡垣学)

別紙目録 略

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